越前和紙の担い手として兄弟で支え合う「三代目の形」。
株式会社山岸和紙店
専務取締役 山岸 保喜さん
会社の事業について教えていただけますか?
1949年に祖父が和紙問屋として創業し、現在は兄が社長、私が専務を務める3代目です。社員も父・母・叔父・義姉と、家族を中心とした会社です。
事業の主軸は、越前和紙の製紙所から紙を仕入れて卸すことです。取り扱う種類は幅広く、住宅で使う襖紙をはじめ、美術作家が額装や展示に用いる裏打ち紙、ホテル・飲食店向けのランチョンマット、ハガキ・名刺など、多岐にわたります。
越前和紙の産地の特長は、一つの製紙所でも多様な種類を製造でき、それぞれ異なる技術的な強みを持っていることです。和紙問屋としての私たちの役割は、各製紙所の技術や特長を深く理解したうえで、お客様のご要望に合わせたコーディネートをすることだと考えています。
家業を継ごうと思ったきっかけは?
父は、兄弟で継ぐと意見の相違が生じた際に経営が不安定になるのではと懸念していたようで、「継いでほしい」という話は特にありませんでした。私自身も、当初は継ぐつもりはなかったのが正直なところです。
新卒入社した会社を退職したあと、印刷会社やデザイン事務所を見学させてもらったりしていました。そうした日々の中で、「孫の代も兄弟で支え合っていってほしい」という祖父の願いを思い出したことが、入社を決意するきっかけになりました。その後、父に相談し家業に加わることにしました。
社長との役割分担や、入社後に取り組んだことを教えてください。
明確に役割を決めたわけではありませんが、社長の兄が営業を中心に担い、私は商品企画・開発を担当する役割が自然とでき上がっていきました。
入社後は、和紙のシルク印刷を習得し、父が社内に設備を整えてくれたことで、自社でのシルク印刷加工も行うようになりました。また、膨大な越前和紙の種類を一つひとつ覚えていく中で、和紙の新たな可能性に気づき、創業者である祖父の名を冠した自社ブランド「Sogoro」を立ち上げ、オリジナル商品の企画・開発・販売に取り組んでいます。
最近では、福井県の伝統工芸を現代のライフスタイルにアップデートしていくプロジェクト「F-TRAD」にも参加し、県外のデザイナーと協力して新商品の開発を進めています。
今後の展望をお聞かせください。
祖父の代から積み重ねられてきた知識と経験は、私たちにとって何にも代えがたい財産です。そうした歴史の厚みこそが、ファミリービジネスの強さだと感じています。
モノが溢れる時代だからこそ、これまでの経験を活かしながら、現代の暮らしに寄り添った和紙の可能性を追求していきたいと思っています。越前和紙は1500年の歴史を持つ産業ですが、時代に合わせて変化し続けてきたからこそ、今日まで受け継がれてきたのだと思います。
新しい商品企画に挑戦する中で、クリエイターやデザイナーとの出会いも増え、多様な視点に触れることで、越前和紙の新たな魅力を発見するワクワク感を覚えています。
産業として厳しい局面もありますが、紙の需要は幅広い分野に存在しており、そこに大きな可能性を感じています。「越前和紙のことなら、山岸くんに聞いてみよう」と気軽に頼っていただける存在になれたらと思っています。